翻訳書、読んでみよう!

 『見知らぬ友』

(マルセロ・ビルマヘール作/宇野和美訳/福音館書店)
 アルゼンチンの作家による短編集で、1980年前後、独裁政権下だったころの首都ブエノスアイレスを舞台にした短編が10編収録されている。表題作「見知らぬ友」のほか、「世界一強い男」「地球のかたわれ」など、どれも淡々とした日常生活のなかに非日常的なものがまぎれこむ、なんともいえないあじわいのものばかり。10編のオチはさまざまで、せつなかったり、思わず吹き出したり……。けっして明るい時代ではなかったのに、そこはかとなく——ときには自虐的な——ユーモアが漂うのは、作者がユダヤ系だからだろうか。(KA)

 『ぼくたちがギュンターを殺そうとした日』

(ヘルマン・シュルツ作/渡辺広佐訳/徳間書店)

 第2次世界大戦終了直後のドイツ。10代前半のフレディは両親とうまくいかず、おじさん一家と農村で暮らしている。戦争が終わるまでドイツ領だった地域から人が続々と逃れてきていて、ギュンターもそのひとりだった。少し鈍いギュンターをフレディと仲間の少年たちは邪魔に感じ、ある日、ひどいいじめをしてしまう。誰にやられたのかギュンターは言わなかったが、大人たちにばれる前にあいつを殺そうと、最年長の少年が言いだす。そんなことはしたくないけれど、仲間外れにされたくない……。フレディは苦悩する。(KA)

 『僕とおばあさんとイリコとイラリオン

(ノダル・ドゥンバゼ作/児島康宏訳/未知谷)

 1942年、ソビエト連邦の一共和国だったグルジア(現ジョージア)の田舎の村に、ズラブ少年は祖母オルガと二人で暮らしていた。小学生のくせに煙草を吸い、酒を飲む、悪ガキだ。口げんかばかりしている、はちゃめちゃな叔父のイリコとイラリオンに巻き込まれて、ときには犯罪まがいのことをすることもある。つらいことや悲しいことも起きるけれど、笑いとばして陽気にやりすごす。時は流れ、村の学校を卒業したズラブは、首都トビリシの大学へと旅立つ……。日本で初めてグルジア語から直接日本語に翻訳された、記念すべき小説。(KA)

 『ロイスと歌うパン種

(ロビン・スローン作/島村浩子訳/東京創元社)
 サンフランシスコで新人プログラマーとして働くロイス。仕事が忙しすぎて食事はおざなりになっていたが、疲れきって帰宅したある日、彼女の家のポストに宅配レストランのちらしが入っていた。注文したパンと特製スープの美味しさに感動し、常連になり、店主と親しくなったころ、店主がアメリカを去ることに……。店主から託された秘伝のパン種を使ってパンを焼き始めると、ロイスの生活に変化が訪れる。謎めいた一族にまつわるファンタジーであり、仕事小説でもあり、ラブストーリーでもある? 読み終えたら、きっと何かを始めたくなる。(KA)

次元を超えた探しもの アルビーのバナナ量子論

(クリストファー・エッジ作/横山和江訳/くもん出版)

 アルビー少年の両親はスイスの研究所セルンで働く科学者だったが、母親が病気で亡くなってしまう。ほかの世界では母親が生きているかもしれないと父親から話を聞いてアルビーが準備したのは、段ボール箱にガイガーカウンター、量子コンピュータ、そしてバナナ! 母親に会うため、量子物理学にもとづいた「バナナ量子論」を考えだし段ボール箱に入ってたどりついた世界には、悪アルビーやアルバなど、似て非なる自分がいた。パラレルワールドや「シュレーディンガーの猫」と聞いて興味をもつ人にぴったりな、SF冒険ファンタジー。(KY)

クラバート

(プロイスラー作/中村浩三訳/偕成社)

 物乞いの少年クラバートは、不思議な夢に導かれ、荒れ地の水車場で粉ひき職人の見習いとなる。だが、そこは魔法使いの親方に支配された世界だった。新月の夜中にやってくる謎の大親方、大晦日の晩に起こるおそろしい出来事……。クラバートは少しずつ明らかになる秘密におののきながらも、魔法を学び成長していく。親方との対決をむかえたとき、愛する女の子の助けをかりて、クラバートは自由を勝ち取ることができるのか? ダークな魔法世界で繰り広げられるこの物語は、ドイツとポーランドにまたがるラウジッツ地方の〈クラバート伝説〉を下敷きに、作者プロイスラーが11年の歳月をかけて作りだしたそうだ。(YS)

IQ
(ジョー・イデ作/熊谷千寿訳/早川書房)

 アフリカ系アメリカ人の青年探偵アイゼイア、通称IQは、ある事情でまとまった金が必要になり、腐れ縁の男ドッドソンが持ちこんだ仕事を引き受ける。それは巨大な猛犬をつかって大物ラッパーの命を奪おうとした殺し屋を探し出すことだった。現在の物語と交互に語られる過去の物語では、高校生だったアイゼイアが突然悲劇に見舞われ、悩み苦しみ、迷走したすえ、進むべき道を見つけるまでの姿が描かれる。全編に漂うラップのリズムに乗れなくても、とにかく最後まで読んでほしい。アイゼイアと兄の強い絆にほろりとする。(KA)

『海にはワニがいる』
(ファビオ・ジェーダ作/飯田亮介訳/早川書房)

 父も学校の先生もタリバーンに殺されたあと、10歳の少年エナヤットは母にアフガニスタンからパキスタンへ連れだされる。その母もアフガニスタンに戻ってしまい、ひとり残されたエナヤットは仕事を見つけてお金を稼いでは、運び屋を見つけ、イラン、トルコ、ギリシャへと渡っていく。狭いトラックにぎゅうぎゅう詰めにされ、凍死の恐怖とたたかいながら何日も歩いて山越えをし、ゴムボートで海を渡り……。想像を絶する経験を重ねた末、ようやくイタリアで難民申請をしたときには8年が過ぎていた。すべて実際に起こったことである。(KA)

『カラヴァル 深紅色の少女』
 (ステファニー・ガーバー作/西本かおる訳/キノブックス)

 カラヴァルは、年に一度世界のどこかで開かれる魔法のゲーム。勝者は願いをひとつ叶えてもらえるという。特別招待客として招かれた17歳の少女スカーレットは、妹のドナテラと船乗りの青年ジュリアンとともに会場に向かうが、突然ドナテラがさらわれてしまう。妹を救うため、危険なゲームに挑むスカーレット。ジュリアンはいつもそばで守ってくれるけれど、なにか秘密を抱えているようで……。不思議な魔法の世界では、心を惑わされないように気をつけて! どこまでも続くどんでん返しに、心をぎゅっとつかまれてしまいます。(MY)

 

『びんの悪魔』
 (R・L・スティーヴンソン作/よしだみどり訳/福音館書店)

『宝島』『ジキル博士とハイド氏』などで知られるイギリスの作家スティーヴンソンが書いた、ぞくっとする物語。ケアウエという貧しい船乗りが、あるとき航海先で、見知らぬ男におかしな取引を持ちかけられる。この世にふたつとない貴重な小びんをたったの50ドルで買ってほしい、というのだ。その小びんには小鬼が入っていて、びんを買うと、小鬼が持ち主の言いなりになって望みをなんでもかなえるという。ただし、この小びん、他にもちょっと恐ろしい条件があって……。はたしてケアウエは小びんを買うのか。あなたならどうする? (AT)