最終選考会では、2名の最終選考委員が、第1次選考を通過した12作品を1作品ずつ検討し、最優秀賞2作品、優秀賞1作品、特別賞1作品を選びました。


第1次選考を通過した作品への、最終選考委員からの感想やアドバイスをご紹介します。ぜひ、これから文章を書くうえでの参考にしてください。

 

竹之内 愛梨さん(中1)
『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々〈盗まれた雷撃〉』

(リック・リオーダン作/金原瑞人訳/ほるぷ出版)


金原「内容の紹介をしっかりしていて、ビブリオバトルで発表したら、おもしろいものになりそうな作文だね。友だちに実際にすすめたりしているし。もう一歩、突っこんだ考えを入れられると、さらによくなったかな」
田中「好きな本に出会えた興奮を、自分の言葉で力強く表現していますね。それがこの本の紹介にもなっていて、本の魅力を存分に伝えてくれています。繰り返し使った「見えない糸」という言葉も光っていました」

 

 

瀧川 にしかさん(中2)
 『カレジの決断』

(アイビーン・ワイマン作/瓜生知寿子訳/偕成社)

 

金原「「勇気」という言葉をキーワードにして、物語を自分にひきつけようとしている。頑張って書いていることがよく伝わってきました。欲を言うと、感想で「読者は」としているところなんかも、自分の意見にすると、一般論から抜けでた骨太の作文になるのでは」
田中「アーミッシュの説明に分量をさきつつ、本の内容をうまくまとめています。アーミッシュと自分、主人公カレジと自分、というふうに比べることを出発点にして、考察を深めているのもいいですね。勇気について考え、今の気持ちを表現できていました」

 

 

水谷 愛子さん(中2)
 『アメリカの小学生が学ぶ歴史教科書』

(E.D.Hirsch, Jr(原書)/村田薫、ジェームス・M・バーダマン(編)

/有限会社A to Z訳/株式会社ジャパンブック)


金原「日米の歴史教科書を比べてみたんだね。手際よく説明しているし、よく書けています。一歩進めて、日本の教科書は分量が少ないとか、アメリカの教科書は写真が少ないとか、そのあたりの記述には、具体的な数字を入れたら、より説得力が増したんじゃないかな」
田中「作文を書いた動機、使用した本、その2冊の比較、というふうに、きちんと段階を踏んで、2冊の視点の違いを説明できていました。導入部の簡潔なわかりやすい文章はお見事。最後に、解明できていない点を述べているのも、うまい締めくくり方でした」

 

 

岩井 路加さん(高1)
 『MARCH』1、2、3巻

(ジョン・ルイス、アンドリュー・アイディン著/ネイト・パウエル画/押野素子訳/岩波書店)

 

金原「本を読むまで知らないことばかりだったなあという驚きが、よく伝わってきた。知らなかったことを知ったというところまではしっかり書けているので、つぎは、自分がどう考えているのかというところをもっと掘り下げていけるといいと思う」
田中「グラフィックノベルという新しいジャンルに挑戦してくれました。頭に渦巻いたたくさんの考えや思いを文章にしたことで、それが勢いのあるブックレビューになっているのもよかったです。知識の獲得という「読書」がもつ大きな魅力を感じさせてくれる作文でした」

 

 

永田 将さん(高1)
 『異邦人』

(カミュ作/窪田啓作訳/新潮社)

 

金原「この本の注目すべき点に注目して、それを自分の言葉で表現しようとしているね。書きたいことがたくさんあるのが伝わってきました。しいていえば、そのすべてを原稿5枚にまとめるのは難しいから、例えばクライマックスのことだけとか、論点をしぼって書くといいかもしれない」
田中「主人公ムルソーの態度や行動と作者カミュの意図を読み解くのはたいへんだったと思いますが、果敢に挑戦していますね。この物語のキーワードのひとつ「太陽」から、ムルソー、物語の要約へと自然につなげるなど、文章も巧みでした」

 

 

宮田 葵さん(高1)
 『チェルノブイリの祈り―未来の物語』

(スベトラーナ・アレクシェービッチ作/松本妙子訳/岩波書店)

 

金原「内容紹介がきっちりできていて、知ることの大切さ、知らないことに対する反省を、自分のこれからにつなげている。話を教育まで広げて考えているところもいいと思う。知ることで未来が変わってくるというのは、その通りだね」
田中「本を出発点に、自分の考えや疑問、意見を明確に過不足なく表していますね。「知る」をキーワードに話を展開、最後に本のタイトルと主題を入れてくるなど、作文のまとめ方もすばらしかったです。書かれている内容にも、心をゆさぶられました」

 

 

由水 舜さん(高2)
『O・ヘンリ短編集(三)』より「最後の一葉」

(O・ヘンリ作/大久保康雄訳/新潮文庫)

 

金原「「原作」というのは、英語で読んだということかな。いずれにしても、要約はうまくできています。小学三年生で初めて読んで以来、何度か読んだからかもしれないね。せっかく理解が進んだのだから、さらに踏みこんだ考察があると、もっとよかった」
田中「百年以上前の物語を読みながら、「プラセボ効果」やAIなど、自分をとりまく今に思いを馳せている様子が伝わってきました。同じ本を何度か読んだり、いろんな翻訳書を手にとったりもしているのですね。物語の魅力と一緒に、読書の醍醐味も伝えてくれる作文でした」

 

 

上原 彩佳さん(高3)
 『嘘の木』

(フランシス・ハーディング作/児玉敦子訳/東京創元社)

 

金原「自分の意見を作品にそってきちんと言葉にできているところがすばらしい。この作品の読ませどころである最後のお母さんのせりふをとらえて、うまく文章として表現しています。しっかりした作文」
田中「最初と最後の一文が効いています。文章の読ませ方を心得ていますね。全体を通してストレートな表現が多く、それが今回は成功して、力強く勢いのある作文をつくりあげていました。今の問題である#MeToo運動と絡めて最後をまとめているところも、感心しました」

 

 

佐々木 諒さん(高3)
 『少年は戦場へ旅立った』

(ゲイリー・ポールセン作/林田康一訳/あすなろ書房)

 

金原「作文を書くとき、どうしても一般的に言われている社会批判に乗って自分の意見を述べがちになるけれど、これは自分で考えたことを書いているのがわかる作文だね。自分なりに作品を読みこんでいて、着目点もおもしろい」
田中「主人公チャーリーが直面した強烈な恐怖と佐々木さんがそこから受けた衝撃が、そのまま伝わってきました。この本への興味をかきたてられます。チャーリーの心と死を自分にひきつけて考え、独自の意見を述べているところも光っていました」

 

 

椙山 佳奈さん(高3)
 『オリエント急行の殺人」

(アガサ・クリスティ作/長沼弘毅訳/東京創元社)

 

金原「今回、読んでいていちばんおもしろかった作文。描写も構成もうまいし、文章が上手だね。中高生でこの力量は、かなり高く評価できるんじゃないかなあ」
田中「テンポ、リズムのいい文章で、一気に読めました。構成はもちろん、印象的な言葉の繰り返しや比喩の使い方などもうまくて、ふだんからたくさん読んで書いている方なのだろうと想像できます。秀逸な二次創作でした」

 

 

宮下 恵理歌さん(高3)
 『ちいさなくも』

(エリック・カール作/もりひさし訳/偕成社)

 

金原「絵本を題材に作文を書くのはむずかしいんだけど、よく書けています。窓から見た空のエピソードなんかは、独特のおもしろさがあるので、もう少し掘り下げられたら、さらによかったかも」
田中「小さい頃からの愛読書ということもあり、この本の魅力をいくつかの角度から紹介できていますね。作文に出てくるご自分のエピソードと、この絵本の雰囲気と、文章の感じが合っていて、それが大きな魅力になっていました」

 

 

凜太郎さん(高3)
 『デミアン』

(ヘルマン・ヘッセ作/高橋健二訳/新潮社)

 

金原「よく読みこんで、作品を自分のものにしようとしているし、夢中になって読んだことがしっかり伝わってきた。読書の持つおもしろさをうまく表現しているね。感動をきちんと言葉にできているところがいい」
田中「強烈な読書体験を書くことで、この本のすばらしさをなんとか伝えようとしている点、ご自分の解釈を堂々と述べている点が、特に好ましかったです。思いの強さを感じさせる作文。本に対する深い感動が伝わってきました」

 

 

総評

去年もいい作品がたくさんあったのですが、今年は応募数が増えたこともあって、さらにレベルアップしていて、読むのがとてもスリリングでした。読書を通じ、フェミニズムや環境問題を自分に引きつけて考えて書くスタイルが見事に決まっているものもあれば、作品のなかにのめりこんで書くスタイルがうまく形になっているものもあって、読む力、書く力を感じました。そしてなにより、どの作品からも読む楽しみが強く伝わってきました。(金原瑞人

 

今年1次通過した作文は、今を生きる自分の考えや思いをなんとか言葉にして伝えてくれたものが多かった印象です。もしかしたら、世の中の流れをみなさんが敏感に感じとっている表れかもしれず、大人のひとりとして身の引き締まる思いがしました。さて、昨年同様、今年の応募作も力作ぞろいで、1次選考を通過した作品に至っては、それぞれに優れていたため、賞を選ぶのは苦しい作業でした。特別賞を作ったのも、そうした選考の過程で考えた結果です。すばらしい作品がたくさん来すぎて選考が苦しくなるのは、大歓迎。来年もご応募をお待ちしております。 (田中亜希子