最終選考会では、2名の最終選考委員が、第1次選考を通過した16作品を1作品ずつ検討し、最優秀賞2作品、優秀賞4作品を選びました。


第1次選考を通過した作品への、最終選考委員からの感想やアドバイスをご紹介します。ぜひ、これから文章を書くうえでの参考にしてください。

 

 

 

相原 葵さん(中1)
『白いイルカの浜辺』(ジル・ルイス作/さくまゆみこ訳/評論社)

 

金原「ライフセービングの体験談が入っているのがいいよね。こういうふうにエッセイ風にするのもありだなと。自分の気持ちに引きつけて書くのはとても大切なことだし、この子のことがよくわかりました」

田中「『海を守る』というキーワードと自分のライフセービングの体験がちょうど重なって、この本をとても興味深く読めたことが伝わる作文でした。これからも読むこと、書くことにどんどん挑戦してほしいです」

 

 

秋山 琉哲さん(中1)
『ハリー・ポッターと呪いの子』(J・K・ローリング作/松岡佑子訳/静山社)

 

金原「ハリー好きの中学生の気持ちがとてもよくわかる作文で、楽しかったです。『慎重派の僕をいろいろな冒険に連れて行ってもらいたい』というのはまさにファンタジーを読むときの醍醐味だよね」

田中「シリーズものを全部読んだことで、新しく出たつづきの本を存分に楽しめた、という読書体験がいいですよね! 自分ならどうするか、と考えながら、作品の中に入りこんで読書を満喫しているのが伝わってきて、作文を読むこちらも楽しかったです」

 

 

たきがわ にしか さん(中1)
『アルケミスト』(パウロ・コエーリョ作/山川紘矢・亜希子訳/地湧社)

 

金原「この本を読んで『今を大切にしよう』と思うようになった過程が丁寧に書かれていました。『正直なところ、私は勉強が面倒臭い』なんていう中学生が、そんなふうに思ってくれたっていうのがうれしかったな」

田中「本の内容がよくまとまっていて、文章もわかりやすかったです。感想を織り交ぜながら、物語をきちんと説明していますね。『ときに結果以上に過程のほうが大事なことがある』という気づきもお見事でした」

 

 

野上 日菜子さん(中2)
『白鯨』(ハーマン・メルヴィル作/田中西二郎訳/新潮社)

 

金原「『白鯨』をよく読んだね。反捕鯨に結びつけるのは無理があるかなと思ったけど、当時の捕鯨業のことや航海の順序を紹介しているところはよく書けていたし、しっかりひとつのテーマに食らいついて書いているところは偉いなと思いました」

田中「捕鯨が盛んだったアメリカが反捕鯨に転換した理由を、『白鯨』から見出そうという試みが、目を引きました。長い作品を読むだけでもたいへんだったと思いますが、そのあと丹念に調べ物をして自分なりに考察し、結論を出したところに、気迫を感じました」

 

 

渡邊 千尋さん(中2)
『アクロイド殺害事件』(アガサ・クリスティ作/大久保康雄訳/東京創元社)

 

金原「いろいろ批判のある作品だけれど自分としてはおもしろかった、と紹介してくれている。そのわりに普通に終わっているのが少し残念かな。でも、お母さんにすすめられて読むなんて、素直な子だよね。こういう子が娘だといいな」

田中「作者紹介と作品要約からポワロの手法、さらには作品論争へと自然につなげて書けています。巻末の解説まで読むことで、この作品をより深く楽しみ、つぎの読書へつなげようとしていることがうかがわれました」

 

 

川嶋 菜々さん(中3)
『わたしのせいじゃない』(レイフ・クリスチャンソン作/にもんじまさあき訳/岩崎書店)

 

金原「自分の気持ちを織り交ぜながら絵本を紹介していく書き方がとてもいいね。物語がいじめから始まって世界的な視野にまで広がっているところにちゃんと着目して、いじめというものの本質的な部分も考えているところがよかった」

田中「感想をのべることで、物語を上手に説明していますね。また、いじめについて冷静に考察を進めています。この絵本の大事な要素である最後の写真にも言及しているところが、とてもいいです」

 

 

黒田 乃愛さん(中3)
『悲しい本』(マイケル・ローゼン作/谷川俊太郎訳/あかね書房)

 

金原「絵本のストーリーをうまく追っているし、悲しいという気持ちについて書いているところがおもしろかった。自分自身の悲しみとか、なぜ『その光が男性を希望で包もうとしているように思えた』のかも書いてもらいたかったな」

田中「出だしで読者をつかむ工夫をしていますね。印象に残ったページのロウソクの光について、自分の言葉で表現しようとしている姿勢もよかったです。何回も読んで考えをめぐらせることも、本の味わい方のひとつですよね。そこも好ましかったです」

 

 

後藤 彩世さん(中3)
『そらをとんだくじら』(アルカディオ・ロバト作/ウィルヘルム・菊江訳/講談社)

 

金原「人魚姫のパロディとして自分で物語を書いたというのがおもしろいね。作り方もうまい。最後の結婚のところはいきなりなので、もう少しわくわく、はらはらさせてほしかったけど、いい物語に仕上げていて、楽しかったです」

田中「物語のつづきを書いたのですね。元の話の雰囲気を引きつぎつつ、ロマンティックで素敵な恋の物語に仕上げていました。物語を、おとぎ話の決まり文句『末永く、幸せに暮らしました』で終わらせるなど、言葉や表現の端々から、日ごろ本をたくさん読んでいることも伝わってきました」

 

 

齋藤 未麗さん(中3)
『わすれられないおくりもの』(スーザン・バーレイ作/小川仁央訳/評論社)

 

金原「大切な問題を自分なりに考えているところがよかった。もう少しほかのエピソードとか、ほかの登場人物なんかをからめて書くと、考えが広がっていくと思う。自分の体験や考えたことも文章にしてみると、さらにいい作文になるかな」

田中「印象に残った『長いトンネル』という言葉を中心に作文を書いたのですね。その言葉をあらすじの中で使うだけでなく、それが『死』を表しているとはっきり示せている点がよかったです。この本が、自分にとって今はまだ遠い『死』について考える機会になったこともわかりました」

 

 

ジャスティン・ヒーハーさん(中3)
『かあさん、わたしのことすき?」(バーバラ・ジョシー作/わたなべいちえ訳/偕成社)

 

金原「過酷な環境で生きる感動的な親子の物語がこの作文から読み取れました。イヌイットの伝統的な衣服だけでなく、それが現在の化学繊維に代わってきているというところも紹介してあって、リアリティが伝わってきました」

田中「最初に、短い適確な言葉で本の紹介と、イヌイットの説明をしていて、わかりやすかったです。また、『なぜこの本にでてくる人々がイヌイットなのか』という論点を設け、それを筋道立てて説明できていますね。論理的な書き方がうまかったです」

 


古屋 駿さん(中3)
『レッドツリー』(ショーン・タン作/早見優訳/今人舎)

 

金原「『最も共感が湧いたのは、“楽しいことは、すぐに過ぎてしまう”です』と書いて、その気持ちを5行くらいで一生懸命表現しようとしている。しっかり自分の気持ちを自分の言葉で表現しようとする思いがにじみ出ていて、文章の多少の粗が気にならなくなるくらい、とてもよかったです」

田中「『楽しいことは、すぐに過ぎてしまう』ときの気持ちについて、丁寧に、自分の言葉で描写しようとしているところが、とても光っていました。また、全ページに一枚の赤い木の葉が出てくることを発見し、絵が語るもうひとつの物語も読み取っている点は、お見事でした」

 

 

丸屋 凜奈さん(中3)
『子馬とカバ』(ヨゼフ・ウィルコン作/いずみちほこ訳/セーラー出版)

 

金原「絵本と関連づけて自分の叔母さんの例を出し、『従兄弟は大変そうでした』『将来子育てをする時が来たら、役立てたいと思いました』と書いているところが正直でいいね。とても大切な視点で、それをちゃんとこうやって書いてくれてうれしかった」

田中「本の内容を読み解いて、考察をまじえながら、簡潔にまとめ直しています。絵本をきっかけに、自分の叔母さんのことを思い出し、本から得た大切なことにつなげて書けている点も、うまかったです」

 


未来さん(中3)
『とうさん おはなしして』(アーノルド・ローベル作/三木卓訳/文化出版局)

 

金原「恐怖について書いているところは、気持ちがとてもよくわかる。内面についてもよく書けていた。『時には誰かの手を借りる勇気を持って、立ち向かうことが必要なのだ』と続けていくあたりは、大学生でもなかなか書けないかもしれない。そういう意味で、とても読み応えがあったかな」

田中「難しい熟語や目を引く表現がまじっていて、ふだんから本を読んでいることがわかりました。荒けずりながらも、自分の感じたことをどうにかして文章にしたいという衝動が見受けられ、そこがすばらしかったです。勢いや力強さを感じました」

 


倉光 桃花さん(高1)
『鏡のなかの迷宮』(カイ・マイヤー作/遠山明子訳/あすなろ書房)

 

金原「とてもよく書けていたし、自分の網にかかったものをうまく使って調べているね。この作品を読んで『両眼性無眼球症』のことを書きたくなった気持ちもよくわかる。最後、『たくさんの人に“光”を与えてほしい』という願いも、高校1年生らしくていいと思いました」

田中「本に出てきた何か一点が心に強烈に残ることがあります。倉光さんの場合、それは目の代わりになるという、アーチボルトの魔法の鏡(技術)だったのですね。そこを出発点に、気になることをWEBや別の本でどんどん調べていった。その追求心とパワーに感心しました」

 


日笠山 るりか さん(高1)
『ロミオとジュリエット』(シェイクスピア作/中野好夫訳/新潮社)

 

金原「文章を書き慣れている子なんだろうな。解釈が少し違うかなと思うところもあったけど、それ以上に、『ジャニオタ』の比喩とか、ロレンス神父について『何故恋愛のスペシャリストみたいなことがいえるのか、怪しい』と書いているあたり、うまくて、とてもおもしろいと思いました。もう自分で物語を書いている子なのかも」

田中「古典を読みこなし、自分の言葉で要約できています。出だしで端的に物語を紹介するところから始まって、予想外だった二点、面白いと感じた台詞二つ、と手際よく、ユーモアを交えながら、話を進めていくところは天晴れでした」

 


森 麻奈歌さん(高2)
『帰ってきたヒトラー』(ティムール・ヴェルメシュ作/森内薫訳/河出書房新社)

 

金原「高校生でこういう本を読んでくれてうれしいし、作品のメッセージを的確にとらえている。作品としてどこがおもしろかったか、どこに引き込まれたか、どこに興味を持ったかも書いてもらうと、もっとよかったかな」

田中「レビューとして読める作文ですね。全体の印象をうまく表した『危険なオーラ』という言葉を見つけた点、出だしとラストをリンクさせている点が成功しています。今の世界の動きと絡めて書いているところが、頼もしかったです」

 

 


総評

ショーン・タンの『レッドツリー』のようなユニークな絵本から、ハーマン・メルヴィルの『白鯨』のような世界の名作まで、いろんな本が取りあげられていて、びっくりしました。それから、いかにも若々しい素直な気持ちや、ちょっと大人には思いもつかないような発想や、大人も考えさせられるような提案もたくさんあって、感心しました。これからも世界のことや自分のこと、そしてまわりの人々のことを想像しながらいろんな本を読んでほしいと思います。(金原瑞人

 

今回の受賞作は、本をきっかけに考えたことや思ったことを表現したい、という衝動が強く感じられるものばかりでした。そういう衝動は大切だと思います。そして、せっかく見つけた「表現したいこと」なのですから、読み手にきちんと伝わったほうがいいですよね。文がねじれている、意味がわかりにくい、説明が足りないといったところがあったら、もったいない! 作文を書き上げた際には、他人になったつもりで読み直してみましょう。つぎのチャレンジも、お待ちしております! (田中亜希子